対人スポーツの鉄則は「相手をコントロールする」ということ。
相手がこちらの動きに合わせて妨害を仕掛けてくる以上、自分のしたいことだけを考え・実行していては勝てません。そのあたりが「敵は過去の自分」と言われる個人競技とは異なる部分です。
私は中学・高校とバスケットボールをしていましたが、この競技でも勿論そうした考え方は重要です。かの名作「スラムダンク」の“山王工業高校戦”においても、エース流川が沢北や仙道といった好敵手との戦いを通じてそのことを理解するシーンがあり、非常に印象に残っています。
バスケの1on1では、実力がある程度拮抗しているとディフェンスを完全に抜き去るのはほとんど無理です。だからこそ、試合においてオフェンス側はフェイクなどを駆使することでディフェンスの行動をコントロールし、自分が抜きやすい状況を作り出すわけです。少しでも相手を上回ろうとする無言の駆け引きの応酬があり、極論、その繰り返しによって試合が成立していると言っても過言ではありません。
また、「攻撃は最大の防御」と言う一方で、人間は攻撃時に最大の隙が生まれるものです。敢えて隙を見せることで相手の攻撃を誘発し、そこに生まれた相手の心理と肉体の間隙に想定外の一発をお見舞いする「カウンター」が一撃必殺とも言える威力を発揮するわけですが、ここでもやはり意識の誘導が効果的に働いています。
ちょっと目線を変えれば、マジシャンが息をするように行っている「ミスディレクション」も同じ原理だといって差し支えないはずです。
お笑い芸人がオーディエンスの笑いを誘うべく、場の空気を意図的に作り変えることだって、もちろん一緒。
といったような感じで、「相手を自分の都合の良いように動かす」という考え方は対人の状況において必須スキルであると言えます。
これは口で言うのはたやすいのですが、実際にはかなりの能力やセンスが問われます。状況を俯瞰し、自他の位置関係を正確に把握するだけの認識力と、それを元にして適切な言動を考えるだけの即興力と他者意識。これらを等しく鍛錬していく必要があるわけで、これはなかなかに難しい。
ともあれ、仕事をしていても、生徒を相手に授業をしていても、この考え方はかなり大切だと思います。
こちらへの警戒心をバリバリに働かせており、防御が万全の相手に玉砕覚悟で突っ込むことこそ無駄なことはありません。少しでも自分の意に沿うような状況を生み出すためにも、目的に沿った形で、相手を巧みに誘導する技術は是非とも持っておきたいところです。