今回は授業実践記録を一つ。
このブログでも何度か宣言しているように、そろそろ本格的にライティングワークショップをしようと画策しています。
ただ、いきなり本格的なことをするのはまだ自信がないため、何か肩慣らし的なことができないかとあれこれ考えていました。
「石橋は鉄筋でガチガチに舗装してから渡る」がモットーである超慎重派の悲しき性。「とりあえずやってみよう」ができないのです。
ブログやTwitterや教育雑誌や研究紀要など、様々な先行事例を参考にした末に、今回は肩慣らしの意味も込めてリレー小説形式で短編小説を書かせてみることに。
以下、覚え書き的に、大まかな流れをまとめておきます。
「リレー小説を書いてみよう」
※今回は全2時間構成
【ねらい】
・「文章を書く」ことの抵抗感を軽減し、まずは何かを書かせる。
・他の人の書いた文章を読む機会を設けることで、表現における幅の広さを認識させ、互いに刺激を与える。
・共同で何かを作りあげていく楽しさを実感させる。
・誰かの書いた文章の続きを書く、という仕組みにより、「他人」を意識した文章を書く練習をさせる。
1時間目
・「起承転結」の構成について説明した後、「起」の部分を自由に書かせる
「起」「承」「転」「結」の四つの記入枠を設けたワークシートを配布。(B4サイズを横にして四等分)
・作業の途中で、「残りの三つ(承・転・結)の部分は、【リレー小説スタイル】で別の人が書く」ということを明かす
ここは若干迷いました。最初から「今回はリレー小説」と明かしても良かったのですが、そうすると、恥ずかしがって設定が縮こまってしまうのではないかという懸念がありました。それでは当たり障りのない無難な作品ばかりになってしまう。
後述するように、リレー形式によって発生する「作品の質に対する責任の分散」が生徒のモチベーションにプラスに働いたため、結果的には今回の場合は「サプライズ形式」で良かったのかもしれません。
・なかなか書き出せない生徒に対して、「結末について責任をとる必要はないため、あれこれと難しく考える必要は無い」ことを伝え、とにかくまずは何か書いてみることを促す。
活動開始直後の生徒の様子を見ていて気付いたのですが、「全体の見通し」が立っていないと書き始めることができない、という生徒が結構な数いました。これはある意味当然の現象といえるでしょう。特に、進学コースに在籍するような生徒ではそれが顕著であるように思います。
そこに「オチは別の誰かが考えてくれる」という安心材料?が与えられたことによって、「それじゃあ……」とばかりにほとんどの生徒が書き始めました。
※その分、自分は他の誰かのオチを担当しなければならないんですけどね。朝三暮四とはこのことか。
もちろん、見通しを立てた上で書き始める、ということも作文においては非常に大切なことなのですが、今回の授業の主眼は「とにかく書いてみる」「書く楽しさに気づく」ということだったので、まずはこれで良しとしました。
・自分の思ったとおりの展開を、自分以降の人が書いてくれるとは限らないこと(それがリレー小説の醍醐味)を念押しする
今回の活動では、序盤の担当者が見通しをはっきりと立てすぎると後続の自由な発想を妨げることにもなってしまいます。
今回はジャズセッションのようなライブ感を楽しんでもらいたいということもあったため、補足をしておきました。
・タイトルは結末の担当者が考える、ということを指示し、ワークシートを回収。次時にランダムで配布し、続きを書かせる予定であることを伝え、この時間は終了
2時間目
・予告通りプリントをランダムに配布し、時間を区切りながら完成を目指して原稿を回していく
この時間はひたすら書く時間。周囲と相談したり、タブレットを使って調べながら書いても良いことを指示したので、比較的賑やかな雰囲気になりました。
・「結」部分の担当者にタイトルを考えてつけさせた後、ワークシートを回収。職員室にて全作品をスキャンした後、回覧することを予告し終了
これで、出来栄えはどうであれ、クラス人数+教師分の作品が完成します。
勤務校では生徒全員にタブレットを配布しているので、全作品をスキャンしてPDF化したものをクラウドサービスを利用して一斉に共有します。
やってみて感じた利点
・作品執筆にスピード感が出て、テンポよく書ける
「起 20分 → 承 10分 → 転 10分 → 結 15分」の配分で実施しましたが、短く時間を区切ったことによって間延びすることなく、スピード感のある展開を作ることができました。
生徒も時間いっぱい頭をフル回転させており、なかなかにアクティブな活動になったのではないかと思います。
ただ、生徒によっては設定時間が短すぎて結構な負担になっていたかもしれません。このあたりはもう少し調整が必要だと感じました。
・「みんなで作る」というワクワク感がモチベーションの維持に貢献した
・他の人から回ってきた原稿を引き受ける、という仕掛けが、書くことに対する責任感を生み出した
個人で最初から最後まで書かせた場合、「最後まで書ききらない」という事態が予測されます。そこには、「モチベーションの低下」と「自分一人だけにしか迷惑がかからないという責任感の弱さ」が隠れているはずです。
自分の書いた文章を他人に読んでもらう機会と、他人の書いた文章から刺激を受ける機会を等しく設定することで、モチベーションの低下をある程度は防ぐことができたように思います。
また、四等分して書くことによって「完成作品の質」に対する責任が分散し、書きやすくなるのは先ほど述べた通り。
一方で、その裏では「みんなで繋いだ原稿を自分で断絶させるわけにはいかない」という新たな責任が発生しており、それが「担当部分を責任を持って最後まで書ききる」という意識を刺激するのに一役買いました。
・話の展開について意識しながら書かせることができた
起承転結という四つのパート毎に書かせているので、「自分が今書いているのが作品全体で言えば大体何合目に相当するのか」がはっきりと分かり、「話の筋」を意識して書くという訓練になりました。
まとめ
結果としては、全体としてかなり活発に活動することができており、生徒の反応も上々でした。
そして何より、実際に完成した作品を読んでみると、非常にレベルの高い作品が多いことに驚きました。直前の生徒の残した無茶振りに近いぶっ飛んだ展開を見事に拾い上げて後の展開に自然に繋げている生徒や、独特の発想でユーモア溢れる文章を書く生徒、非常に読みやすい流れるような文章を書く生徒など、今まで気づかなかった生徒たちの「書く力」の片鱗に触れることができました。
今回のような活動を実施しなければ気付けなかったであろう生徒の才能に気づけたのは本当に大きな収穫でした。こういうことがあるから授業ってのは面白い。
今後のライティングワークショップに繋げていく光明が見えた授業だったように思います。
生徒たちが見せてくれた可能性を信じ、授業展開を先に進めていく決心がついた授業でした。