2日目のキーノートセッションは、待ちに待った中原淳先生の講演。
先生のブログの熱心な読者である私としては、もはや講演の内容云々よりも生で中原先生を拝見できるということにテンションが上がります。そんなこんなで、アイドルのコンサートばりに気合いを入れて臨んだセッション。
今回のテーマは「見える化をきっかけとした学校づくり」。
学校改革に興味津々の私としてはもちろん、講演の内容についてもとても楽しみでした。
というわけで、今回も講演内容の要点や気付きについてまとめていきたいと思います。
【目次】
- 組織改革は心理戦、素手で戦うな
- 組織改革の一丁目一番地は、「組織の見える化」
- 「キャズム」を超えてゆけ
- 学校づくりの4ステップ
- 「カリキュラムマネジメント」と「働き方改革」はセットで行うべし
- 「時間にキャップをするだけ」の働き方改革は逆効果
- データは正解を教えてくれない。正解は自分たちで探し出さねばならない。
- 「祭り」を終えて見えてきたもの
組織改革は心理戦、素手で戦うな
学校現場の持つ独自の雰囲気として挙げられたのが、①同僚性、②専門職ならではの信念、③現状維持のバイアスという3点。
「同僚性」により、職員室内には「みんな違ってみんないい」という相互不可侵の雰囲気が発生します。そして、「専門職ならではの信念」によって、各々の自尊心は肥大化してゆき、気付けば「信念」の押し付け合い、つまりは対立を生み出すことに。また、教育現場は、閉鎖的な空間の中で「伝統」を積み上げてきてしまったが故に、新しいことに対して「変わりたくない・変わる必要が無い」という謎の抵抗感が生じているのも事実。これが「現状維持のバイアス」。
こんな状況にあっては、学校改革はなかなか一筋縄ではいきません。まさに「無理ゲー」感が半端ない。
だからこそ中原先生は「まずは作戦を練る」ことを推奨します。学校の改革というものは、規則そのものを変えさえすればそれでよい、といった簡単な問題ではありません。そこにはドロドロとした不毛な心理戦が繰り広げられることは避けようがなく、事前の対策を万全にしてから立ち向かわなければ、志半ばでゲームオーバーになりかねません。
組織改革の一丁目一番地は、「組織の見える化」
そんな感じで、早速絶望的な現状を叩きつけられたわけですが、もちろん、この講演ではこうした現状への対処法が述べられます。
繰り返し話に出てきたのは、「人はイメージできないことはマネージできない」という言い回し。一般に、人間に不安を与える事物の共通点として「得体が知れない」という特徴が挙げられます。改革を進めるためにはただ漠然とした危機感を煽るだけでは逆効果となることも多く、下手を打つと現状維持のバイアスを刺激するだけで終わってしまいかねません。
そうならないためにも、まずすべきは「組織の見える化」を図ること。「数字は嘘をつかない」の格言通り、「データ」は万人に共通の物差しとして機能します。争点を明確化することはスムーズな対話の導入にも一役買うことになるため、正に「組織改革の第一歩」として欠かすことはできません。
「キャズム」を超えてゆけ
どんな分野であれ、新しいことを普及していくには困難がつきまといます。
そこで紹介されていたのが「キャズム(溝・隔たり)」という概念。
市場の構成員を【イノベーター(革新者)、アーリーアダプター(初期採用者)、アーリーマジョリティ(前期追随者)、レイトマジョリティ(後期追随者)、ラガード(遅滞者)】の五つに分類したとき、とあるイノベーションが全体に広がるためには「アーリーアダプター」から「アーリーマジョリティ」へと達する必要がありますが、ここには大きな溝(キャズム)が広がっているために、なかなか一筋縄ではいかないことがままあります。逆に言えば、そこを超えることができれば後はしめたものでイノベーションの普及は比較的容易に進んでいく、というのが「イノベーター理論」の定説であるようです。(講演後に自分なりに調べてみました)
「イノベーター」と「アーリーアダプター」の割合を足した数が約16%。「新しいこと」を全体に伝播させる上では、いかにこの16%、つまりは「キャズム」を乗り越えられるかが重要になってくる、というわけです。
「16%」と聞くと結構たやすそうに思えるのですが、やはり実際は難しいのでしょうね。中原先生が指摘するように、油断することなくしっかりと策を練る必要があります。
学校づくりの4ステップ
「①見える化」を達成した後には、それをエサに管理職レベルでの「②意識合わせ」を行い、今度はそれを一般の教員も巻き込んだ全体での「③対話」へと繋ぎ、そうしてようやく「④ビジョンを実践」していく、というのが今回示されたモデル。
これらをぐるぐると回していくことによって、単発では終わらない「持続可能な改革」が可能となるわけで、やはり、とにもかくにも問題点の「見える化」は急務です。
講演ではここから「大学」「高校」「教育委員会」それぞれの現場での改革事例が示されましたが、やはり全ての事例に共通するのは「見える化」をベースにし、確たる根拠を元に自信を持って事に当たっている、ということでした。
より高度な教育を、持続可能なものとしていくためにも、結果を残した実践についてもどんどん「見える化」していきたいものです。
「カリキュラムマネジメント」と「働き方改革」はセットで行うべし
今盛んに議論されている「教員の働き方改革」。これは教員の多忙さが原因の根本に坐しており、「改革したくともそんな暇は無い」という絵にかいたような悪循環に陥っているのが現状です。
現状を変えることには大きなエネルギーを要するわけで、メンタルやバイタルの養生を図るためにも「落ち着いて物事を考えることのできる時間の捻出」は必須です。学校改革に多くのリソースをかけられるようにするためにも、早急に何とかしなければなりません。
「何を残し、何を捨てるのか」という考え方はカリマネにも働き方改革にも共通する部分であり、両者は互いにシナジーを形成することが可能です。いや、むしろこの両者を連動させながら事を進めていかないと、どこかで袋小路に迷い込んでしまいそうな危機感すら覚えるところです。
「時間にキャップをするだけ」の働き方改革は逆効果
現在あちこちで進行している「働き方改革」ですが、その実情は単に「残業するな」「休みなさい」といった、「残業せざるを得ない仕事」そのものにはメスを入れることなく、ただ単に書類上の数字を健全化させるだけの改革に過ぎないことが多いように聞き及んでいます。
しかし、そんなちぐはぐな改革が進められるようでは、結果として教員のやりがいを削ぎ、多忙感を更に強めることにも繋がります。そうなればもはや逆効果ですらあり、それを防ぐための重層的な手立てが必要になると中原先生は指摘します。
ただ量を減らすだけではなく、質を高める方向で何か打開策を練らねばならず、そこと向き合わなければ真の意味での「働き方改革」は為しえません。
データは正解を教えてくれない。正解は自分たちで探し出さねばならない。
そんなこんなで、「あらゆる問題を『見える化』を起点に考えていきましょう」というのがこの講演の肝でした。
ただ、数字に代表されるデータは嘘をつきませんが、一方で「正解」を教えてくれるものでもありません。「見える化」されたデータによって目線を合わせることがゴールではなく、むしろ真の戦いはそこから始まると言っても良いでしょう。
「個々の即人的な取り組み」ではなく「組織ぐるみでの取り組み」が重要であると中原先生も説いており、「共通のビジョンを元に熱く語り合うことで学校は変わっていくのだ」という内容で講演は結びを迎えました。
「祭り」を終えて見えてきたもの
「ビジョンの共有」と「対話の繰り返し」。
オープニングセッションに始まり、この二日間のあらゆるセッションにおいて散見されたこのキーワード。
今回のマナビフェス全体を貫くテーマは「“みんな”ではぐくむ学びの未来」ですが、やはり為すべきことは最終的に同じ方向へ向かって収束していくのだなと認識をはっきりさせたところでした。
このイベントが教育の「フェス」であるということも、何かそうしたことを感じずにはいられないところです。「祭り」はみんなで楽しみながら盛り上げるものであり、一人で頑張ってもそこには虚しさと徒労感が残るのみです。
学校が一つの組織である以上は、全員で同じ方向を向き、明るく楽しい未来を語りながら改善を図っていきたいという気持ちを更に強めることができました。
そんなこんなで多くの学びと気付きに満ちた「未来のマナビフェス2019」。
まだまだ他にもまとめていきたいのですが、キリがないのでひとまず参加レポについてはここらで一段落つきたいと思います。
全体を振り返ってみても、遠方より参加して本当に良かったと心から思える充実の時間でした。来年も開催されるのであれば、ぜひとも参加をしたいところです。
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