ネコとコーラと国語と私

私立高校勤務の国語教師が感じた教育に関するあれこれ。あとたまにネコとかコーラとか。ブログ毎日更新中。

「チーム」とは何か? ――「スラムダンク」の安西光義先生と、「医龍」の朝田龍太郎先生に学ぶ

 

「協働」の重要性が叫ばれる昨今、生徒たちはあらゆる他者とチームを結成し、協働を行う中でこれからの時代に対応できるだけのマインドを養っていかなければなりません。いや、別に生徒に限った話ではなく、学校現場においては我々教員もチームを組んであらゆる問題に立ち向かっていかねばなりません。

 

さて、「チーム」とは一体何なのか。

 

【目次】

 

 

 

「スラムダンク」に学ぶ

 

「スラムダンク」は日本有数の素晴らしいスポーツ漫画だと思います。私個人も人生におけるベストの一冊を挙げろと言われれば、真っ先に候補に挙げます。本当に、この漫画からどれほどの勇気と情熱を貰えたか。いかなる時代の若者にも是非とも読んでほしい、いつまでも色褪せない名作です。

 

さて、そんな「スラムダンク」における有名人の一人である「安西先生」。

その恰幅の良い風体からは想像もできないけれど、自身が全日本出場経験を持つ選手であり、かつては「白髪鬼」の異名で知られたスパルタコーチ。そんな彼も作中では随分と丸くなり(いろんな意味で)、彼の人柄に惹かれて湘北高校に進学してくる選手もいるほどです。「諦めたらそこで試合終了だよ」の名言はあまりにも有名。

 

そんな安西先生が、大学で指導していた時のエピソードにて出てきた一幕。恵まれた身体能力に任せて基礎トレーニングを疎かにする「矢沢」に対し、チームの何たるかを次のように説き、喝を入れます。

 

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井上雄彦著「SLAM DUNK」22巻より



「お前の為にチームがあるんじゃねぇ

 チームの為にお前がいるんだ!!」

 

これは地味にかなりの名言だと思うのです。言い回しが抜群の切れ味を持っており、あたかも自分が「矢沢」になったかのような強い衝撃を受けてしまいます。

自分とチームのどちらに主軸を置くのか。この判断を誤ると全体の足並みの不和を招いてしまい、結果として試合に勝つことはできません。そしてそれは、社会の現場における仕事においても同じこと。「自分は力を持っている」と思っている「なんちゃって優等生」が陥りやすいのがこの状態であり、「自分が中心となってチームを動かしているんだ」という思い上がりによるワンマンプレーは結果として大きな歪みを生み出し、チーム全体の機能不全という結果を生み出します。

 

 

余談:意外と知られていない「安西先生」のフルネーム

 

さて、この名言を言い放った安西先生。一貫して「安西先生」の愛称で呼ばれていますが、実は作中に一度だけフルネームが登場するのをご存知でしょうか?

 

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井上雄彦著「SLAM DUNK」23巻より

 

インターハイ編の扉絵にてしれっと出てくるメンバー表における「監督氏名欄」に、はっきりと書かれています。

 

安西光義。

 

多くのプレーヤーに対し、彼らが進むべき道を指し示すことで導いてきた人物造形にふさわしい名だと言えるでしょう。

 

 

 

「医龍」に学ぶ

 

同じく私が人生において大きく影響を受けた医療マンガ「医龍」。

医療現場の現実を描いたヒューマンドラマとしての側面だけでなく、大学の医局間抗争や教授選における政治闘争などを題にした組織改革、あるいは次代にバトンを繋いでいく後進育成の在り方、といったようなあらゆるテーマが複雑に絡み合い壮大なストーリーが練り上げれていく様は圧巻の一言。全編を通じて、重厚で緊張感のあるストーリーを楽しめる傑作です。

 

そんな「医龍」においても、「チーム」の何たるかについて触れられる場面があります。

 

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永井明原案、吉沼美恵医療監修、乃木坂太郎作画「医龍」 4巻より

 

「誰かが助けてくれるのがチームじゃねえ。

 死にものぐるいで――

 全員の役に立とうとするのがチームだ。」

 

研修医でありながら、難しい手術を半ば無理やり任されることになり困惑する「伊集院」に対し、主人公である天才外科医「朝田龍太郎」は突き放すようにこう言ってのけます。

 

これもやはり「チーム」の本質を見事に突いた言葉だと思うのです。この漫画は「医療マンガの皮を被った熱血マンガ」と言われるほど熱い展開が随所で繰り広げられているわけですが、この一幕も主人公朝田の持っている人命を預かる医師としての矜持が現れた熱い場面であると言えるでしょう。

複数で構成されるチームではあるけれども、それは責任の分散を主眼に置くわけではなく、チームの構成員全員が同じ目標に向けて各々のパフォーマンスを最大限に発揮することを目的としているわけで、それこそが真のチームワークである。そう朝田は語るわけです。

 

 

 「個」の集合による「集団」という考え方

 

両者に共通しているのは、「個々人の私的なレベルで『チーム』を捉えるのではなく、集団が共有する目的の達成に向けて個人が全力を尽くすものである」という主張です。

ある一定の目的に向けて結成されたチームなわけですから、そうしたチームが何を目指しているのかを見失うことなく、共通する目的の達成に向けて構成員全員が各々の持ちうる力を尽くしていくことの大切さ。そして、それが結果として全体の目指す目的の成就へと向けた最適、かつ最善の手段として機能するということ。これらのマンガのエピソードからは、そうしたことを学び取ることができます。

 

「チームワーク」と聞くと、「相互の助け合い」ということをイメージするものですが、その考え方には「いざという時には集団が個を守ってくれる」という甘えであるとか、「自分さえしっかりしていれば他人がどうあろうが知ったことではない」といった独断専行を招きかねません。

やはり大事なのは「何のためのチームなのか」を正しく認識し、「チームの為に自分は何ができるのか」を突き詰めて動くこと。それに尽きるでしょう。

 

 

これからの時代は、未曾有の困難を対処していくために、価値観の異なる他者同士でチームを組む機会は増えてくるはずです。

そんな時に持つべきマインドとして、これらのマンガの世界における「先生」たちの教えを持っておくのもいいかもしれません。