この世界にはありとあらゆるところにキャッチコピーが存在しており、私たちはその中で生活をしています。
「一目で義理とわかるチョコ」――ブラックサンダー
「うちのオヤジが18才に泣かされた。」――熱闘甲子園
「自分の夢まで、自己採点しないでください。」――河合塾
「最初に好きになった女性は、誰ですか?」――LOFT、母の日ポスター
街角でふと目にするポスターに、テレビで流れるコマーシャルに、店頭に並ぶ商品のパッケージに。私たちはあらゆる場所でキャッチコピーを見つけることができます。
コンビニ御三家もそれぞれが特色を出したコピーを打ち出しています。
「街のほっとステーション」――ローソン
「あなたとコンビに」――ファミリーマート
「セブンイレブンいい気分」――セブンイレブン
ゲーム業界も結構印象に残るコピーが多い。
「クーソーしてから寝てください。」
「クーソーは、頭のコヤシです。」――ナムコ
これは思わず膝を打ってしまいました。
「の~みそ コネコネ」――コンパイル
「ぷよぷよ」を生み出した今は無きコンパイルのコピー、語呂が非常に良い。
といったように、例を上げればキリが無いほどに、膨大な数のキャッチコピーが巷に溢れているわけです。
「本質的に言語に置換できない事象を、言語によって表現しようとする不可能への挑戦」が文学の使命であるとするならば、キャッチコピーが志向するのは「世界をどう切り取るのか、新たな可能性を模索する試み」とでも言えるでしょうか。
世界をいつもとは少し違った角度から切り取ることで、我々の世界の見方を変えてくれる。それがキャッチコピーの醍醐味。言葉を尽くせば説明できることを、いかに簡潔に表現して受け手に強烈なインパクトを残せるのか。コピーライターは日々我々の心に傷跡を残すべく、言葉の持つ可能性を試し続けているわけです。
そんなわけで、思わず素晴らしいキャッチコピーに出会えた時は、居合の達人の絶技を目の当たりにしたような、そんな感動でゾクゾクしてしまいます。
言葉遊びの妙味というのでしょうか、言葉の世界の奥深さに酔わされる瞬間です。
名キャッチコピーは誰でも作れる
さて、そんなキャッチコピーですが、すでに何度か授業に取り入れています。
自分の発する言葉を、状況や目的、相手との関係などによって自在にコントロールする力。これはものすごく大事な能力であり、是非とも身につけさせておきたいところです。同じ内容であっても、言い方ひとつで共感を得られるか否かが大きく変わってしまうのが人間の精神の不可思議なところです。相手に刺さる言い回しを意図的に繰り出せた方が人生において絶対に得なわけですから、これは鍛えておくっきゃない。
大きめの書店に行けばすぐ分かりますが、世にはキャッチコピーのノウハウ伝授を目的とした書籍が数多く出版されています。
そう、キャッチコピーを作る能力とは、その気になれば誰だって身につけられる一種の「技術」です。才能という言葉で片づけてしまうのは非常にもったいない。
入門としてはこの本が分かりやすいでしょうか。
この本では、
①サプライズ法 ②ギャップ法 ③赤裸裸法 ④リピート法 ⑤クライマックス法
といったように、「強い言葉」を作るためのノウハウを体系化してくれており、「明日から使える」テクニックを簡単に学ぶことができます。おすすめ。
こうしたことを授業でも折に触れて教えている訳ですが、結構呑み込みのいい生徒は思わず感心するようなハイクオリティのコピーを作ったりします。こうなってくると、 次年度はコンテストへの応募も視野に入れ、積極的に取り組んでいきたいところです。
ハイセンス&ハイクオリティ 麦焼酎「二階堂」のコピー群
最後に、個人的にかなりお気に入りである、「大分麦焼酎 二階堂」のキャッチコピーを是非とも紹介したい。
どれもが秀逸すぎる。これはもはや文学、読むたびに切ない気持ちに包まれます。
「夢を持て」とはげまされ、
「夢を見るな」と笑われる。
ふくらんで、やぶれて、
近づいて、遠ざかって…。
今日も夢の中で
目を覚ます。
水平線を引いたのは、
空があまりにも空だったから。
夜空に星を撒いたのは、
地球と言う星を忘れそうだったから。
私は私のままでここにいる。
私の記憶に、いつも後姿で現れる人がいる。
あの頃、あなたが口にしなかった言葉に、
いつか私は、辿り着くのだろうか・・・?
幾千、幾万光年の彼方から、
星たちは、どんなメッセージを伝えようとしていたのだろう。
満天の星が、今宵も天文詩人たちを悩ませる。
いつも、新しい輝きと、新しいいのち。
思えば、守れない約束ばかりだった。
会いたい人と会えない人。
風の便りは、いつも風向き次第。どうか、タイムマシンが発明されませんように。
目を閉じるだけで、十分です。
なんというノスタルジック。このわずかな文字数で人間の心をここまで揺さぶるとは……。いやはや、言葉の奥深さを痛感させられます。
こんなコピーを作れる人間に、わたしはなりたい。