ネコとコーラと国語と私

私立高校勤務の国語教師が感じた教育に関するあれこれ。あとたまにネコとかコーラとか。ブログ毎日更新中。

書店側から見た「立ち読み」の功罪

どうして本屋での立ち読みはあそこまで捗るというのに、いざその本を購入するとなかなか読み進めることが出来なくなるのだろう。あれかな、「参考書買ったらそれで満足してしまう」のと同じ現象なのかな? 不思議です。

 

【目次】 

 

 

「立ち読み」に罪は無い

 

「立ち読み」自体はとても大切な行為だと思います。その本に書いてある内容や、その本が全体的に持っている雰囲気を購入前に確認することができ、これはネット通販には無い大きなメリットです。今どきはネット上でも最初の数ページを「試し読み」できるわけだけれども、やはりそれだけでは感じることの出来ない、もはやフィーリングレベルでの絶妙な「何か」は確実に存在します。

生徒からは「オススメの参考書」を尋ねられることがよくありますが、最終的には「必ず実際の書店で立ち読みして、自分に合うか合わないかを確認した方がいいよ」とアドバイスをします。どんなに内容が優れていても、それが「自分にしっくりくるかどうか」はモチベーションを保つ意味でも、理解度や定着度を上げる意味でも、無視できない重要な要素たり得るはずです。

 

また、「本との偶然の出会い」は自分の世界を広げる上でとても大切なことであり、これは実際に書店に足を運ばなければなかなか起こりづらい現象です。書店をウロウロしている中で、買う予定に無かった本とふと「目が合う」ことはよくあることです。もはや「運命」にも近い出会いがそこにはあり、そうしてたまたま興味を引かれた本を立ち読みしてみて、良さそうだと思い購入した本は結構「当たり」である率が高く、思い入れのある1冊になりやすいように思います。

 

 

どんな「立ち読み」が迷惑となるのか

 

そんなこんなで、メリットが大きい「立ち読み」ですが、書店員の側から見ると、必ずしも歓迎される訳ではありません。

私は学生時代に書店でのアルバイトをしていましたが、その中で世には「立ち読み」に並々ならぬ熱意を燃やす人がいることを学びました。とにかく「何がなんでも立ち読みだ!」という飽くなきまでの執念がそこにはあり、もはや何かの哲学を感じるほどのお客さんもいたほどです。

 

先述したような、「買うかどうかを判断するための立ち読み」は書店側にとってはむしろ大歓迎です。ネット書店の台頭は、実物を置くリアル書店には大いなる脅威であり、となればリアル書店は「未知の本と出会える」という独自の強みを生かしていかねばなりません。そこでは「立ち読み」は必須行為なわけですから、「どうぞ試し読みをして、自分のフィーリングに合う1冊を見つけてください」というスタンスで容認すること無しにはリアル書店の存在意義は無いと言っても言い過ぎではありません。

 

 

一方で書店側からして看過できない「立ち読み」は、

 

①そもそもその本を買う気はハナからなくて、「読破」を念頭に置いた「タダ読み」をしようとしているケース

②書棚の前を占拠してしまい、他のお客さんが本を選ぶことを妨害しているケース

 

といったようなケースであったように感じます。

(あくまで私の働いていた店舗での認識ですので、全ての書店がそうであるとは限りません)

 

 

①はそもそも冷やかしであり、直接書店の利益に繋がらない訳ですからまず歓迎はされません。もちろん、「枯れ木も山の賑わい」とばかりに、店内に繁盛感を出してくれ、それが後続のお客さんの「入りやすさ」を招いてくれるのであればそれはそれで一定の価値があると思うのですが、中型~大型店舗ではあまり意味がありません。

仲介業者の中抜きが大きいために、本の利益率はとてつもなく低く、数を捌かないと書店の利益にはなりません。それこそ万引きなどされたに日にはとんでもない被害となり、小さな書店はそれだけでも潰れかねません。

よって、「購入する気もなしに立ち読みをする」客は、書店側にしてみればあまりありがたい存在ではないわけです。

 

また、②のようなケースも書店側からすると結構いい迷惑です。どうしても本を大量に陳列するためには物理的な制約が出てくるわけで、自ずとスペースにも限界があります。よって1人のお客さんによって長時間特定のスペースが占有されてしまうと、他のお客さんがその範囲にある本と「出会う」機会を損ねてしまいます。となるともちろんそこにある本を買ってもらえる機会は失われ、結果として店の利益にも繋がりません。

せめて他の人がその棚を物色していたら少し移動するなどの配慮が欲しいところであり、この問題を解決しようとしてわざわざ「座り読みコーナー」として椅子を準備する書店もあるくらいです(私が働いていたお店もそうでした)。他の人の邪魔になるくらいなら、椅子に座って読んでもらった方がまだマシ、というわけです。バイトをする前は「なんでわざわざ椅子なんか置いているんだろう?」と思っていましたが、そのカラクリはそういうことであることに書店側の目線になって初めて気が付きました。

 

 

共存を図るような「立ち読み」にご協力を

 

と言ったわけで、書店にしてみれば「立ち読みは基本的に歓迎するけれど、容認しがたいケースもある」といったところでしょうか。どの書店も、利益を上げ、生き残るためにも「立ち読み」メリットを存分に活かし、デメリットを解消するためにあらゆる対策を取っているわけです。

もう書店員でなくなって10年以上経ちますが、立ち読みをする度にふとそうしたことを思い出してしまう今日この頃。このご時世、どの書店も生き残りをかけて必死に戦っています(余談ですが、わたしが働いていた書店もつい最近潰れてしまいました。嗚呼、諸行無常なり)。店舗型のリアル書店が無くなって困るのは客側とて同じ訳ですから、そこは共存を図るべく、「節度ある立ち読み」をしたいものです。