本日は『教育の方法と技術:主体的・対話的で深い学びをつくるインストラクショナルデザイン』という本を読了。
教育を取り巻く環境が大きく変わってきており、従前のやり方ではもはや対応不可能な局面を迎えている昨今、「授業をどうデザインしていくのか」ということは私の大きな関心事となっています。そんな中、「インストラクショナルデザイン」という言葉に惹かれAmazonにてタイトル買いした一冊です。
教育の方法と技術:主体的・対話的で深い学びをつくるインストラクショナルデザイン
- 作者: 稲垣忠,市川尚,小林祐紀,佐藤靖泰,菅原弘一,寺嶋浩介,成瀬啓,深見俊崇,森下孟
- 出版社/メーカー: 北大路書房
- 発売日: 2019/03/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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【主な目次】
第1章 ガイダンス(1):これからの子どもたちに育みたい資質・能力
第2章 ガイダンス(2):教師に求められる授業力とは
第3章 設計の基礎(1):授業をつくるということ
第4章 設計の基礎(2):評価をデザインする
第5章 設計の基礎(3):学習環境をデザインする
第6章 実践の基礎(1):授業を支える指導技術(教師編)
第7章 実践の基礎(2):学びを引き出す指導技術(児童・生徒編)
第8章 設計の実際(1):学習目標の設定
第9章 設計の実際(2):深い学びを導く教材研究
第10章 設計の実際(3):主体的・対話的な学習過程
第11章 設計の実際(4):学びが見える評価方法
第12章 情報化への対応(1):授業の魅力・効果・効率を高めるICT
第13章 情報化への対応(2):情報活用能力を育てる
第14章 情報化への対応(3):これからの学習環境とテクノロジの役割
第15章 授業の実施:模擬授業・研究授業の実施と改善
付 録
・「教育の方法と技術」シラバス例
・学習指導案テンプレート
基礎基本を押さえた上での授業づくりを促す、入門書的位置づけ
上記の目次からも分かるように、教育界の趨勢に始まり、評価のし方や目標の定め方、さらには学習環境の整え方や指導案の作り方に至るまで、授業作りに求められるあらゆる側面をカバーした内容になっています。これからの時代における教育を考える上での、基本的な事項はほぼ押さえられている印象を受けました。非常に丁寧な作りをしている本です。
それもそのはずで、この本は大学の講義の教科書としての使用も想定しているらしく、これから教師を目指していく初学者が、授業作りについて体系的に学んでいくための利便性に配慮した工夫が散見されます。
巻末には索引があり、キーワードから関連ページにアクセスできるような構成に。微に入り細を穿っているような緻密な索引ではありませんが、一応は辞書的な使い方もできそうです。巻末での引用・参考文献もかなり充実しており、ここ数年の研究成果等にも数多く触れているため、この本で基礎基本を学んだ上で更に興味のある分野について学びを深めていけるよう配慮されているのも嬉しいところ。この本を足掛かりとして、ある程度の部分まではカバーできそうな一冊です。
ただ、良くも悪くも教科書的な内容であるため、既にあらゆる知見を深めている方にとっては、当然ながら物足りない内容となっているはずです。あくまでも土台を固めるための一冊と割り切った方がよさそうです。
そもそもインストラクショナルデザインとは
この本では「教育活動の効果・効率・魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセスのこと」と説明されていました。
授業を受けた生徒が、内容をどの程度理解できたのか、何ができるようになったのか、といった、教育の「効果」を念頭に置きながら、それを「効率」よく展開し、かつ、授業後も生徒が自主的に学びを深めていくような「魅力」ある授業を作っていく、という理論のようです。
基本モデルとしては「ADDIE」(分析→設計→開発→実施→評価)に基づいており、「逆向き設計」に立脚した授業のデザインを行う、ともあったわけですが、正直これって当たり前のことだよなぁとも思ったり。
恐らくはもっと深い原理があるのでしょうが、この本だけではそこまでの解説が無かったのが少し腑に落ちない部分でした。あらゆる内容を詰め込んだ結果、「インストラクショナルデザイン」の理念自体の解説に紙面が割けなかったのだろうと想像するところです。
これに関しては、また今度専門的な書籍を読んで理解を深めておきたいと思います。
常に時代の流れを追い、基本を押さえながら授業を組み立ててゆくことの大切さ
私自身、大学を出て教員免許状を取得してから10年近く経過しています。大学で教職課程を学んでからもう随分と時間が経っているわけで、そもそも当時は「アクティブラーニング」や「主体的・対話的で深い学び」などという考えがまだ浸透していない時代だったわけですから、大学で学んだ知識や考え方自体がもう古くなっているわけです。
また、学部にしても、教育学部ではなく文学部出身のため、日本語や日本文学といった「国語」に関連する事項についてはまだしも、「教育」そのものについてはそこまで深く学んでこなかったというのが正直なところです。
高校教師には、こうした境遇の人が多いはずであり、ともすれば我々は日々の授業の中で「自分が専門的に研究してきた『知識』をひけらかすような形で生徒に教え込む」といったパワープレイに陥りやすいのではないかと感じています。事実、私も最初の数年はそんな感じの授業しかできていなかったように思います。そして今なお授業のデザインをどうすべきかということについては勉強中です。
「自分は十分に理解している」ことを、「何も理解していない」生徒たちに教えなければならないのが「教育」と呼ばれる行為の厄介なところであり、だからこそ「自分の持つ10の知識全てを教えてはならない」といった教訓が大きな意味を持つわけです。必要に応じて「捨てる」技術を養うことも、良い授業を成立させるためには大事な考え方になってきます。
大事なのは、「自分の手持ちの武器を元にして、いかに効果的な授業をデザインしていくのか」ということであり、そのためには自他の特性やそれらを取り巻く環境を正確に把握した上で、明確な目標を掲げると共に綿密な授業計画を立てねばなりません。
時代の流れと共に生徒たちを取り巻く環境や社会のニーズは大きく変化するため、教師こそが常に学び続けなければならないわけで、特にここ最近ではその傾向は顕著に表れています。長年の経験によって自分のスタイルを確立・洗練させてきた教師ほど、それを変えることに抵抗を感じるのはある意味当たり前なことなのですが、そんな人にこそこのような本は読む価値があるのかもしれません。
確かに大学の教職課程の講義で学ぶような初歩的なことが多く書かれており、若干の物足りなさを感じるかもしれません。しかし、だからこそ、中堅以上の教師が読むことで、時代の趨勢と現在の自身のあり方の齟齬を確認し、課題を整理するための一つの指針として活用していくような使い方ができそうだなと感じました。
今年度は有志を募って勉強会をしたいと考えているのですが、そうした場面では結構使い道がありそうです。同僚にも是非読んでほしい。
定期的に初心に帰りながら、自己を客観的に振り返るのは大切。そんなことを考える一冊でした。