「ほう、それは興味深い質問だ」
やすてるは咥えていた煙草を灰皿に置き、立派に蓄えた口髭を満足そうに撫でつけながらこう答えた。
「我々は“世界”を認識しているのではなく、我々の認識の中に“世界”が立ち現れてくる。つまり、『いかに世界があるか』ではなく、『いかに世界を認識したのか』が重要となってくるわけだ。このことは?」
「はい、以前先生より認識論を学んだ折にその話は伺っています。でも、それが何か?」
少年は小首を傾げる。頭上には「?」マークがはっきりと浮かび上がっている。
「まあそう急かすでない。つまりはだな、認識されぬ以上は、もはやそれは存在を認められておらぬも同然じゃて、『バナナ=おやつ』だとする認識を成立させねば、それは既におやつとして認められることはない、ということじゃ。例えばだな……」
そう言ってやすてるは、おもむろに灰皿の上を指さしてみせた。
「実はこれは煙草ではない。煙草に限りなく近い何か……そう、これは『ココアシガレット』じゃ」
「えっ!? なんですって……。ほ、本当だ……。」
「ほっほ、つい先刻まで、この『ココアシガレット』は“おやつ”として認識されていなかったということになる。わしは生まれてこの方煙草を吸ったことはないが、どうしても格好つけたい気分の時にはコイツを愛用しているのじゃよ。ともあれ、この他者の認識をかいくぐる術を悪用することで、学校で定められた『おやつは300円まで』ルールを回避することが可能となる」
そう言ってやすてるは、おもむろに懐から『パイポチョコ』を手にし、紫煙をくゆらせるフリをした。
その堂に入る動作を目前にして、少年はゴクリと生唾を飲み込むことしかできない。
「……はっ!そのメガネはもしや……!」
「気付いたようじゃな。なかなか君は優秀なようだ。そう、これはメガネではない、『ハイエイトチョコレート』じゃ」
「そして、このメガネを耳にひっかけている紐は『ひもQ』じゃ!」
「なんと!……全く気づきませんでした。非常に勉強になります。“おやつ”か否かは認識されるまで分からない。そういうことですね」
「そう、おやつだと断ずるのは認識者の主観によるところが大きいわけだ。逆に言えば、気づかれぬ以上はどれだけでもおやつを持ち込める道理となる。覚えておくがよい」
「なるほど、“らあめんババア”を隠すなら“ベビースターラーメン”の中ということですね?」
「すっぱいレモンは噛んでみるまで分からない、とも言うのう」
「さすがは先生、おみそれいたしました」
少年はそういうと深々と頭を垂れてみせた。
「ほっほ、そういうお主もなかなかやるのぅ。さっきから主の頭上に浮かんでいる『?』マーク。それはよく見れば『ステッキチョコ』ではないか。やれやれ、こいつは一杯喰わされたわい。わしもうかうかしていられんのぅ」
「さすがですね先生、ばれてしまいましたか」
「これこれ、あまり年寄りをからかうでないぞ」
そう言いながらも困惑した様子は一切なく、やすてるはむしろ満足そうにチョビひげを撫で回す。
……そう、やすてるのヒゲが、実は「わたパチ」であることに誰一人として気づいていないのだが、それはまた別のお話……。
とまぁ結局何が言いたいかというと、正直私にもよく分からなくなりました。一体なんなんだこの茶番は。疲れているんだな、きっと。
遠足のシーズンですね
春先は遠足のシーズンですよね。お楽しみの一つ「駄菓子の選定」。子供にとってはかなり大きなイベントとなります。
今は駄菓子屋さんが絶滅危惧種なので、世の子どもたちは駄菓子の購入に苦労することでしょう。昔に比べれば駄菓子の単価も上昇傾向のようなのですが、やっぱり昔も今も「おやつは300円」なのでしょうか?
私の勤務する学校も先日遠足があったためおやつの買い出しに行ったのですが、そこでふと感じたところでした。
いや、それより何より、「わたパチ」が製造終了しているということに大変な衝撃を受けた、そんな30代の遠足なのでした。