「本人の好きなようにやらせて、その経験から学ばせる」のか。
それとも「きっちりと手取り足取り教え込むことで学ばせる」のか。
つまりは「放任」か「過干渉」か、という対立(少し強い表現だが、論点を明確にするために敢えてオーバーに表現しておこう)。これは、学校や家庭での教育をはじめとして、あらゆる教育の場において常に付きまとう問題だ。
これは本当にどちらの考え方も良し悪しで、一概にどちらが良いとも言いきれない。そして、だからこそ時として争いの火種となってしまう。勤務校でも、「総合的な学習」におけるPBLを計画しているが、なかなかうまく方針が定まり切らずにいる。
※「PBL」……「problem-based learning」あるいは「project-based learning」。問題(課題)解決型学習。
【目次】
「できる奴」は、大抵のことはそれなりにうまくやる
「とりあえずやらせてみて、モノになればOK、ならなければ仕方がない」、という考え方は、時として能力による差別を引き起こす。ひどい言い方をすれば、「落ちこぼれは切り捨てる」に繋がりかねないわけで、そんな適者生存的な尖ったやり方は「教育」の場では無責任すぎる。
「できない」を「できる」にするために教育の場が設定されている、というのは動かしようのない事実である。であれば、そんな我が子を谷底に突き落とすようなライオン的なやり方が果たして本当に効果的なのか、と言えばそこには多大な疑問が残る。
できる奴は、誰の助けを得なくたって結局のところある程度はできてしまうものである。成功例を目の当たりにした際、それが本当に教師の手立てのお蔭なのかどうかを常に点検しなければ、我々に残されるのは慢心のみ。そうなると、うまくいかない時に、「生徒が悪い」「環境が悪い」となってしまいかねない。そうなれば、もうその教員には成長は望めない。
「答え」を示し過ぎることの危険性
一方で、あれやこれやと口を出し過ぎるのも考えものである。行き過ぎた指導は逆にそこに子どもを縛り付けることになり、子ども自身の「自分の力で何とかしよう」という思考の余地、あるいは「失敗から学ぶ」という、成長する上で欠かせない絶好の機会を奪い去る。さらにそれが行き過ぎると、「自分は何一つ自由にさせてもらえない」といったような考えを生み出し、子どもの自己肯定感を奪ってしまいかねない。
「誰かに敷かれたレールの上を走る」というフレーズは、正にこのことである。従う人間にしてみればすべきことが明確になっている方が楽なのかもしれないが、これからの時代はそんな教育では通用しなくなる。
何より問題なのは、こうした指導は、知らず知らずのうちに「結局は誰かが助けてくれる」という甘えを助長してしまうところにある。誰かに依存することに慣れた人間に、成長の余地は無い。
これとてやはり、「教育の敗北」である。
本当に対立する必要あるの?
そもそも、元々はどちらの派閥も「子どものよりよい成長」を目標にしているはずだ。
目的は同じなわけで、そこに至ろうとする手段が異なるだけである。だったらそれで別にいいではないか。そう思うわけである。(もし、「子どもの成長」が中核に存在しなければ、それはわざわざ学校でする必要は無い。議論の俎上にすら上がらない)
今日は職場の歓迎会だったのだが、そこで乾杯の挨拶をした先輩教員の話が印象的だった。
「不易と流行、一見矛盾するようだが『教育』という本質は同じ」。
まさにその通りだと思う。
我々の感性や主義・主張は、結構バラバラであるが、別にそのままでも仕事自体は成り立ってしまう(ここに教育現場の特殊性が見て取れる)。授業のスタイルや理想とする生徒との距離感も個々人で全く異なっており、そうした意味では「統一した指導を」なんてお題目は、いつだってむなしく響くだけである。
しかし、根っこの部分には「生徒にもっと良くなってほしい」という信念があるはずなのである。志を同じくする仲間なのだから、表面上の価値観の違いで対立をしている場合ではない。それぞれの考え方には、それぞれの良さ(あるいは悪さ)がある。対立なんかしていないで、共に協力する体制を整えた方が、子どもにとっても有益なはずだ。
教育だって「答え」なき時代
正解なんて一つに決められるものではなし、むしろそれが自然なのだ。
教育の場で機械的に同じ価値観を押し付けることは、思想の統制、ひいては洗脳に繋がる。日本という国は敗戦の経験によってその恐ろしさを学んだはずなのだ。
これからの時代を生き抜く人間には、正解のない問題にどう立ち向かうのか、その力が求められている。
そんな時代を生き抜く子どもたちを育成せねばならない我々教員がまずは、そうした力を基礎からしっかりと身に着けていかなければならない。
学びの技 (YOUNG ADULT ACADEMIC SERIES)
- 作者: 後藤芳文,伊藤史織,登本洋子
- 出版社/メーカー: 玉川大学出版部
- 発売日: 2014/11/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
いがみ合っている場合ではない。どちらの方針にも良いところはあるのだから。
まずは、同じ目標に向かって互いに意見を戦わせた後に、しっかりと手を取り合える環境を構築することが大切だ。